http://www.janjan.jp/media/0612/0612246996/1.php から転載。
時評:「知名度」をのさばらせるメディア 2006/12/25
1995年4月の統一地方選。大阪府知事選では横山ノックが当選した。3カ月ぐらい経ったころ、ある週刊誌が「ノック知事は漢字が読めない。大阪府の職員たちは、知事答弁を書いた後、漢字に大きなふりがなを付けなければならない」と書いていた。
当時の私は毎日新聞編集局の幹部(局次長級)だった。会議で、「参議院議員だったら、中卒で漢字が読めない人の代表がいても良いかもしれない。しかし大阪府知事は組織のトップで1人しかいない。“横山候補は漢字が読めない”という情報は、有権者に知らせる必要があったのではないか?」と問題提起した。
異論1:「選挙報道は中立公正でなければならない」
私 「日刊紙には論評の自由がある。極端に言えば赤旗と同様、“誰それに投票せよ”と書いても違法ではない」
異論2:「選挙妨害で訴えられる」
私 「裁判で勝てるかどうかは不明だが、訴えられることを覚悟のうえで良識を発揮した毎日新聞の評価は高まるはずだ」
議論には負けなかったが、私への賛同者はゼロ。新聞社内部の「異邦人(エイリアン)」であることを痛感した。
で、ノックとともに政界を歩んだのが故・青島幸男だ。1968年7月の参院選全国区でともに当選、95年統一地方選では青島幸男が東京都知事に、横山ノックが大阪府知事になった。
英国のタイムズ紙は、「日本で今起きていることは一体なんなのか。大阪府知事には政治的素質が未知な63歳の漫才師、東京都知事には62歳の喜劇俳優が選ばれた。悪い冗談だ」と論評した。
青島幸男がどんな人物か? 雑誌「話の特集」の編集長だった矢崎泰久が青島都知事任期半ばの97年5月、飛鳥新社から出した著書「変節の人」に書いている。
矢崎は77年、中山千夏らとともに革新自由連合(革自連)をつくるのだが、そのころは青島、ノックと毎日のように会っていた。80年参院選で千夏が当選した後は、矢崎が秘書となり、参院議員会館で暮らす。それまで通り「青ちゃん」と声をかけると不愉快そうな顔をする。「議員に対しては先生と言え。秘書の分際で、議員をちゃん付けで呼ぶとは何ごとか」ということらしい。「青ちゃん」を改めないと、「矢崎と千夏はできている(男女関係がある)」という噂を流す。
こうした経験を出発点に青島という人物を見つめ直すと、「希代のペテン師」だということが分かった。青島都知事の任期半ばにして、「即時辞職」を求めてこの本を書くのが、せめてもの償いと考えた。井上ひさし、永六輔、大橋巨泉、大宅映子、中山千夏ら、「かつて青島の知己だった」人たちの協力が得られた……というのが、矢崎の書くところである。
客観的に見ても、青島幸男・横山ノックの知事当選・在任は衆愚政治の極みと言うべきものであった。青島幸男都政は右翼・反動の石原慎太郎都政に道を開き、横山ノックは強制わいせつ罪で在宅起訴され、大阪府政を官僚支配(通産省出身の太田房江知事)に戻しただけだ。
青島は20日死去したが、日本のメディアはその訃報でも、批判の論調を示さなかった。少なくとも選挙の時には、候補者のマイナス面も報道すべきである。メディアがそれを怠るから、「知名度」や「人気」が選挙を支配することになる。
テーマをもっと広げれば、日本のメディアは、自らの責任で人物批判をしない。政治家でも学校の教員でも、クリーンで優れた人はいて、ダーティーで劣った人物との落差は大きい。それでも「政治家は堕落している」とか「教員は独りよがりだ」とかの一般論しか展開しない。無難な生活を送ろうとする人たちは、メディアの一般論どおりの行動をとろうとする。だからどの世界も、どんどん堕ちていく。
こうして「政治家は例外なく利権漁りに走る権力亡者」といったイメージが定着し、青島・ノックの当選という事態まで出現した。「衆愚政治」への道を開いたのは、個別人物についての論評を怠り続けたメディアの責任が大きいのである。
自らの責任で人物を批判しないことの埋め合わせなのだろう。警察・検察に逮捕・起訴された人物は徹底的に叩く。検察ファッショの気配が濃厚だし、「逮捕されなきゃいいんだろう」と居直る卑劣漢も増える。
どうやら日本のメディアは、何かの機関が叩いた人物を、尻馬に乗って叩くことを「客観報道」だと勘違いしているらしい。この心性こそ、子どもの世界のいじめに通じるものだろう。
メディアはいまや、日本をダメにしている元凶となっていることを自覚すべきだ。
【寸評】
▼本間正明政府税調会長の辞任=都心部の公務員宿舎を大阪・北新地クラブのママとの「愛の巣」に利用していたのだから辞任は当然。阪大教授の月給でクラブの常連になれたのは何故か。豊富な財務省人脈を活用して、銀行などの幹部と役人の仲をとりもっていたという。安倍晋三の任命責任はどうなるの?
▼6者協議休会=「協議はともかく続いている」状態にメリットがあるのかどうか? 米国・北朝鮮にとって、「協議は消滅した」でも、同じことになりつつあるのではないか。消滅したらどうなるのか? 北朝鮮はミサイルと核を使って暴発するのか。東独と同様、崩壊すると予測したいものだが……。
▼10大ニュース=読売の「読者が選んだ日本10大ニュース」(21日付朝刊)は、(1)紀子さま男子ご出産、(2)トリノ荒川静香「金」、(3)WBC王ジャパンV……と並ぶ。「“いじめ苦”自殺相次ぐ」は(7)、「秋田の小1殺害・各地で子供犠牲に」は(9)、「飲酒運転で3児死亡・懲戒免職広がる」が(10)。明るい話題を優先し、暗いことは忘れたい心理がくっきり。
(藪螺亭晋介)