6月15日付記事
「内閣支持率急落・西川続投反対の世論調査」に世論調査結果を紹介したが、その後に数社の世論調査結果が追加的に発表されたので、併せて再掲する。
主な調査項目として、
@麻生内閣支持率、A首相にふさわしい人、B総選挙比例区での投票政党、C総選挙後の政権の枠組み、D政党支持率、E麻生首相による鳩山総務相更迭について、F日本郵政西川社長続投について、G鳩山総務相の行動について、
に関する調査結果を以下に掲示する。
@麻生内閣支持率
支持する 支持しない
共同 17.5 70.6
朝日 19 65
読売 22.9 67.8
毎日 19 60
日経 25 65
JNN 24.4 74.5
日テレ 23.5 61.7
A首相にふさわしい人
麻生首相 鳩山代表
共同 21.5 50.4
朝日 24 42
読売 26 46
毎日 15 32
JNN 25 40
B比例区での投票政党
自民党 民主党
共同 18.7 47.8
朝日 23 43
読売 25 42
C総選挙後の政権の枠組み
自民党中心 民主党中心
共同 14.9 35.9
朝日 23 52
毎日(*) 27 53
D政党支持率
自民党 民主党
共同 19.8 38.5
朝日 22 29
読売 25.0 29.2
毎日 20 34
JNN 25.8 25.6
E麻生首相による鳩山総務相更迭は
適切だ 適切でない
共同 17.5 74.8
読売 65%
日経 24 56
JNN 17 81
日テレ 25.2 55.7
F日本郵政西川社長は
続投すべき 辞任すべき
共同 17.2 75.7
読売 67
JNN 16 73
G鳩山総務相の行動を
評価しない 評価する
日経 21 59
JNN 34 57
(単位:%、Cの毎日は勝ってほしい政党。赤字が追加分)
麻生内閣の支持率が急落した。大きな原因になったのが、日本郵政西川社長更迭をめぐる麻生首相の「ぶれ」である。
上記の比較表には掲載されていないが、読売新聞は、日本郵政による「かんぽの宿」一括売却に「問題があった」が81%に達したことを伝えた。
読売、毎日系列は西川社長続投に批判的な見解を示し、世論調査でもこの問題に関する世論調査結果を記述しているが、他の報道機関は、西川社長続投問題に関する記述を省いている。麻生政権の支持率に影響する最重要の事項を記事から排除するところに、現在のマスメディアの「歪んだスタンス」が如実に示されている。
民主党前代表の小沢一郎氏秘書が不透明な検察捜査によって逮捕されたのち、メディア各社は世論調査を繰り返し、小沢代表辞任を求める大キャンペーンを繰り返した。そのマスメディアは、西川社長更迭問題に関しては突然の沈黙を示す。誰もマスメディアを信用しなくなる。
世論調査結果では
@麻生内閣の支持率が急落
A首相にふさわしいのは鳩山民主党代表
B比例区では民主党に投票
C総選挙後の政権は民主党中心
D政党支持率で民主党が首位
E麻生首相の鳩山総務相更迭は不適切
F日本郵政西川社長は辞任すべき
G西川社長辞任を求めた鳩山総務相は適切
だとする世論調査結果が示された。
日本郵政西川社長を続投させる方針について、世論は明確にNOの見解を示している。鳩山前総務相と麻生首相の対応について、圧倒的多数の国民が鳩山前総務相の行動を支持し、麻生首相の対応を不適切としている。
麻生太郎首相は16日、鳩山総務相を更迭した理由について、
「政府が100%株主でも、上場を目指している民間会社が決めた話に、後から政府が介入するのは慎重の上にも慎重であるべきだ。決まった後から色々言うのは、政府の不当介入というような誤解を招きかねない。これが今回の話を決めた決定の基だ」と説明した。
麻生首相と鳩山前総務相。非難合戦の様相を呈しているが、客観的に見てどちらが正しいか。
三つの論点について考察する。
@「上場を目指している民間会社が決めた話に政府が介入するのは慎重の上にも慎重であるべき」との麻生首相の主張。
「上場を目指している企業」と「上場を目指していない企業」との間で、政府の姿勢が何か変わるのか。政府は介入すべき問題に介入すべきで、介入すべきでない問題に介入すべきでないだけではないのか。
「上場を目指している企業」の言葉が意味不明である。
繰り返すが、西川社長続投派の人々は「民間会社」と言うが、日本郵政株式会社を「民間会社」と呼ぶことは適切でない。
日本郵政株式会社は100%政府出資の「完全国有会社」である。文字通り、日本最大の国有会社である。資産売却の不正も、「1000億円の資産を100億円で売却した」なら、900億円規模の利益供与ということになる。障害者団体の郵便料金割引不正利用問題が取り沙汰されているが、数億円単位の問題だ。「かんぽの宿疑惑」は数百億円単位の問題なのだ。
日本最大の国有会社の経営問題に所管官庁、所管大臣が厳しい監視の目を光らせるのは当然だ。日本郵政の指名委員会が決めたというが、指名委員会メンバーは日本郵政発足時点の総務大臣認可によって委員になったメンバーで、現時点の認可を受けていない。
決定事項は2009年7月以降の日本郵政取締役人事である。現時点の総務大臣の認可が必要であることは当然だ。日本郵政に重大な不祥事があり、西川社長が深く関与していることも明らかになっている。これらのことを踏まえて総務大臣が西川社長更迭方針を決めたのだ。日本郵政株式会社法は総務大臣の認可権を明記している。
麻生首相の発言は認可権の行使を否定する発言だ。この発言を正しいと思うなら、日本郵政株式会社法を改正して、第9条の総務大臣認可権を廃止するか、第9条を、
(取締役等の選任等の決議)
第九条 会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、小泉純一郎、中川秀直、竹中平蔵、菅義偉、石原伸晃の認可を受けなければ、その効力を生じない。
と改めるべきだ。
麻生首相の発言は、小泉純一郎氏−竹中平蔵氏−中川秀直氏−菅義偉(すがよしひで)氏−石原伸晃氏の「郵政××化ペンタゴン」の発言と同じになってしまった。麻生首相が悪魔に魂を売り渡したことを示している。
A麻生首相の「決まった後からいろいろ言うのはおかしい」発言。
日本郵政の指名委員会が取締役全員の再任方針を決めたのは5月18日である。当初、22日の委員会で決定する予定であったが、西川社長が刑事告発されるとの情報が入り、急遽(きゅうきょ)、18日に前倒しされた。
野党国会議員12名は、西川善文社長を会社法の特別背任未遂で刑事告発したが、刑事告発は5月15日に実行された。日本郵政が指名委員会を前倒しすることを見通して、刑事告発を前倒ししたのだ。
西川社長が刑事告発されるなかで、5月18日に日本郵政が西川社長続投、取締役再任を決定することが間違っている。
日本郵政の100%出資者は日本政府である。日本郵政取締役は株主の意向に沿って経営判断しなければならない存在だ。竹中平蔵氏が大好きな言葉「ガバナンス(企業統治)」の基本の基本がこの点にあることは明白だ。
日本郵政の指名委員会のメンバーは、100%株主である日本政府の意向を十分に踏まえたうえで社長人事、取締役選任を行なう責務を負っている。指名委員会がこの当然のプロセスを経て決定したのなら、政府は決定を尊重しなければならないだろう。
しかし、指名委員会はこうした行動を取っていない。政府の意向を受けた指名委員会メンバーの奥田碩(ひろし)氏が、西川社長に西川社長交代の協議を持ちかけたところ、小泉−竹中ラインがこの動向をキャッチして「横やり」を入れてきたと多くの媒体が伝えている。これが事実であるなら、これこそ、郵政民営化の「私物化」そのものである。
指名委員会が100%株主である政府の意向を反映せずに意思決定を行なったのなら、総務大臣が指名委員会の決定を認可しないことは正当である。この場合、責められるのは指名委員会であって総務大臣ではない。
麻生首相はものごとの道理、法治国家における「法の支配」について、一から勉強し直すべきである。
中川秀直氏、竹中平蔵氏をはじめとする、法治国家の基本に反する行動を示して憚(はばか)らない人々は「国賊」と呼ばれて反論できないだろう。
B麻生首相は自分自身の「ぶれ」を棚の上に置いて、鳩山総務相を非難するべきでないこと。
麻生首相は5月21日の衆議院予算員会で、
「この問題については、所管大臣である総務大臣がしかるべく判断される」
と繰り返し述べて、この問題についての判断を総務大臣に委ねることを明言した。
例えば衆議院の解散については、
「解散は私が判断させていただきます」
と、自身で判断することを明言してきた。西川社長続投問題は、はっきりと、鳩山総務相に委ねると明言してきたのだ。
そのなかで、麻生首相自身が西川社長更迭方針を決めて、後任人事候補を記述した手紙を鳩山総務相に送っていたのだ。「ぶれ」たのは麻生首相である。
御用メディアは鳩山総務相罷免(ひめん)について、
「泣いて馬謖(ばしょく)を斬(き)る」などと伝えるが、これは用法を誤っている。
「泣いて馬謖を斬る」とは、
「間違ったことをした部下を、私情をはさまずに斬る」
ことだが、麻生首相の行動は、
「間違ったことをしていない部下を、自分の私的な利益のために斬る」
もので、意味がまったく違う。
鳩山総務相は「郵政私物化」、「郵政米営化」の現状に憤りを感じたのだ。「かんぽの宿」を契機に、「郵政私物化」、「郵政米営化」を排除することを麻生首相に促した。
麻生首相はいったんこの路線に乗ったが、最終局面で「郵政××化ペンタゴン」から恫喝されて、悪魔に魂を売ってしまった。
日本郵政株式会社の取締役と指名委員会委員の顔ぶれを改めて見てみよう。
代表取締役 西川 善文(にしかわ よしふみ)
代表取締役 高木 祥吉(たかぎ しょうきち)
社外取締役 牛尾 治朗(うしお じろう)
ウシオ電機株式会社代表取締役会長
社外取締役 奥田 碩(おくだ ひろし)
トヨタ自動車株式会社取締役相談役
社外取締役 西岡 喬(にしおか たかし)
三菱重工業株式会社相談役
社外取締役 丹羽 宇一郎(にわ ういちろう)
伊藤忠商事株式会社取締役会長
社外取締役 奥谷 禮子(おくたに れいこ)
株式会社ザ・アール代表取締役社長
社外取締役 高橋 瞳(たかはし ひとみ)
青南監査法人代表社員
社外取締役 下河邉 和彦(しもこうべ かずひこ)
弁護士
一方、取締役を選任する「指名委員会」は西川氏を含む5名によって構成されている。その顔ぶれは以下の通り。
委員長 牛尾 治朗(うしお じろう)
委員 西川 善文(にしかわ よしふみ)
委員 高木 祥吉(たかぎ しょうきち)
委員 奥田 碩(おくだ ひろし)
委員 丹羽 宇一郎(にわ ういちろう)
日本郵政取締役に、日本郵政プロパー職員がただの一人も含まれていない。一言で表せば、「大資本」による「日本郵政乗っ取り」である。
財界で、中小企業団体の性格を持つのが日本商工会議所である。
日本商工会議所会頭を山口信夫氏が務めていた。見識のある立派な人物である。小泉改革に対しても苦言を呈していた。このような人物は外されている。
牛尾治郎氏は1969年に日本青年会議所会頭を務めており、78年に会頭を務めた麻生氏の先輩にあたる。牛尾氏も麻生首相に西川続投を要請したと伝えられている。麻生首相は正論を貫くことができないのだろう。
日本郵政取締役は、小泉−竹中−西川ラインで決められたと考えられ、国民の意志を反映していない。小泉竹中時代にはこれでやむを得なかったが、鳩山総務大臣の時代には正統性を持たない。
麻生政権は今回の決定で、「財界による郵政私物化」、「郵政米営化」を容認したことになる。小泉改革路線に訣別するのかと思ったが、麻生首相は結局、小泉改革路線に屈服してしまった。小泉改革路線が国民に不幸しかもたらさなかったことは誰の目にも明らかになった。
国民は次期総選挙で「小泉改革路線の継続を容認してしまうのか。それとも小泉改革路線から明確に訣別するのか。」この点を基準に投票を判断しなければならない。