為替市場でドル下落が進行している。
マスメディアは「円高」と騒いでいるが、米ドルは日本円に対してだけでなく、ユーロ、ポンド、加ドル、豪ドルなどの主要通貨に対して全面的に下落しており、「円高」と表現するよりも「ドル安」と表現する方が正しい。
本年7月に私は副島隆彦氏との共著書
『売国者たちの末路−私たちは国家の暴力と闘う』
売国者たちの末路
著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
を祥伝社から上梓させていただいた。
その第7章「地獄へひた走る世界経済」
に私は次のように記述した。
「アメリカでは今後数年間、年間180兆円の財政赤字が生まれます。これを賄うにはFRBが無制限に供給するしかない。ドルは大幅に下落し、世界的にインフレ誘発的な環境が強まっていく。ドル暴落はアメリカが最も警戒するシナリオだと思います。
私には、アメリカも日本も“根拠なき楽観”が広まっているような感じを受けます。」
世界経済は2008年に表面化した「サブプライム金融危機」に伴う大調整のさなかにある。本年3月以降、内外の株価が反発して安心感が広がっているが、問題が解決されたわけでない点に十分な警戒が必要である。
今回の金融危機の最大の特徴は、金融危機が資産価格下落に伴う銀行ローンの焦げ付きによって生じているのではない点にある。資産価格上昇過程で天文学的規模に膨張した「デリバティブ金融商品」の価格下落によって危機が生じている点に最大の特徴がある。
この特徴がもたらす最重要事項は、損失規模が過去のバブル崩壊とは「桁違い」であることなのだ。
本年4月以降、米国の住宅不動産価格が小幅上昇した。その結果、デリバティブ金融商品の価格も小幅上昇し、潜在的な損失が小幅縮小した。このことによって、金融市場が小康状態を取り戻した。
しかし、米国の不動産価格が上昇に転じたと判断するのは時期尚早である。オバマ政権は7800億ドルの景気対策を打った。この尋常ならざる巨大政策の効果で「小康状態」が得られたのである。
しかし、このような拡張政策を持続する財政力が米国にはない。早晩、政策によるGDP成長率押し上げ効果は急縮小する。不動産価格が政策の支援を失った時に再下落する可能性は依然として高いのである。
米国は徹底的な金融緩和政策を維持せざるを得ない。その論理的帰結がドル下落である。
日本では日銀に対する金融緩和圧力がさらに強まるだろう。世界は「通貨切り下げ競争」の様相を示し始める。
日本の本当の問題は財政政策にあるが、ここに光を当てないために「デフレ」が宣言され、金融政策に焦点が当たるように意図的に誘導されてゆく。
『金利・為替・株価特報』は一貫してドル下落基調持続の見通しを提示してきた。『金利・為替・株価特報』2009年11月25日号のタイトルは、
「財務省路線採用鳩山政権の巨大リスク」
目次は以下の通りである。
1.【政策】バブル崩壊後4度目の株価暴落危機
2.【政策】2010年度超緊縮財政の巨大リスク
3.【政策】「デフレ宣言」の裏のウラ
4.【米国株価】米国株価を支えているもの
5.【為替】良いドル安と悪いドル安
6.【日本株価】日本株価に三尊天井懸念
7.【金利】短期のリスクと長期のリスク
8.【政策】普天間移設と日本航空
9.【投資戦略】
ドル下落の中期的リスクをしっかりと分析する必要がある。
本ブログ11月8日記事
に、副島隆彦氏の新著を紹介させていただいた。
ドル亡き後の世界
著者:副島 隆彦 |
副島氏は的確に「ドル暴落」と「金価格高騰」を予言され続けて来られた。経済金融予測にとって最も重要な、「ものごとの本質」をこれ以上的確に洞察され抜いておられる方を私は知らない。
11月8日記事に以下の記述を示した。引用させていただく。
「世界の金融市場は政策当局の短期応急処置によって本年3月以降に小康状態を取り戻した。この小康状態を事態改善の第一段階と見るか。それとも、長期大崩壊のトレンドのなかでのあや戻しと見るか。この点が決定的に重要である。
副島氏はこの点について明確な見通しを指し示す。生半可な分析では不可能な中期予測を精密な分析と深い洞察力に基づいて示されるのだ。
米国経済の最大のアキレス腱は、米国が巨額の経常収支赤字を継続している点にある。米国の金融政策当局であるFRBは日本と同様のゼロ金利政策、量的金融緩和政策に踏み出している。FRBの資産健全性の大原則を踏みにじり、FRBのバランスシートは急激に大膨張した。
いずれ、ドルの信認が根底から揺らぐことになるのは確実だろう。この点を副島氏はまったくぶれることなく、洞察し続けてきた。副島氏が予測をことごとくピタリと的中させる金字塔を樹立されてきた背景には、深い洞察力とその洞察力を裏付ける正確な国際政治経済金融情報を集積し得る「情報力」=インテリジェンスが存在するのだ。」
さらに私は次のことがらを書き加えた。
「日本政府は2002年10月から2004年3月までの1年半に外貨準備を47兆円も膨張させた。外貨準備高は100兆円に到達している。しかし、この100兆円はそのまま巨大な為替リスクに晒(さら)されているのである。
本ブログでは、日本の外貨準備の巨大リスクについて繰り返し警告を発し続けてきた。100兆円の外貨準備、政府保有米ドル建て米国国債を、為替損失を実現しないように日本政府は売却するべきなのである。日本政府が100兆円のドル建て米国国債を保有したままドル暴落を放置することは、日本が米国に100兆円を贈与することにほかならない。
橋本龍太郎元首相が米国国債売却を示唆する発言を示し、米国の激しい攻撃に直面した。中川昭一元財務相も米国に隷従する形での資金供給にNOのスタンスを提示した。副島氏は私との共著『売国者たちの末路』においても指摘されたが、中川元財務相のイタリアG7での失脚事件、先般の逝去について、重大な疑問を提示されている。」
急激な円高進行で日本政府は巨大な為替損失に直面している。竹中平蔵氏時代の50兆円の対米資金提供だけでも15兆円程度の為替評価損を計上しているはずだ。ドルが下落するとドル買い円売り介入が叫ばれるが、過去の為替介入損失を総括せずに、節操無くドル買いを続けることは許されるものでない。
ともかくは、副島隆彦氏の優れた著作『ドル亡き後の世界』を熟読し、いま何が起きているのかを的確に把握することをお勧めしたい。
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