小泉純一郎首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反し、精神的苦痛を受けたとして、台湾先住民ら百八十八人が国と首相、靖国神社に一人当たり一万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(大谷正治裁判長)は三十日、参拝を「公的」とした上で「憲法の禁止する宗教的活動に当たる」として違憲と認定した。
判決は参拝の公私の別に対する小泉首相の姿勢について「政教分離原則が論議されている中で、公に明確にすべきだ」と批判した。賠償請求については「参拝や信仰を奨励したり、自らの行為を見習わせることを意図したものではなく、思想、信教の自由など権利を侵害していない」として退け、控訴を棄却した。小泉首相の靖国参拝を「違憲」としたのは昨年四月の福岡地裁に続き二例目で、高裁では初めて。今後の靖国参拝をめぐり内外で慎重な対応を求める声が高まるのは必至だ。
弁護団は判決後の集会で「上告しないことが賢明だ」と提案したが、原告側の一部は「家族と相談したい」と述べた。
判決は、首相の参拝について(1)公用車を使用し秘書官を伴った(2)首相就任前の公約として実行した(3)私的参拝と明言せず、公的参拝を否定していない(4)主な目的が政治的−など参拝前後の状況も含めて検討し、首相の職務としての「公的性格」を持つと認定。
首相が「国内外の強い批判にもかかわらず参拝を実行、継続している」とし「一般人に対し国が靖国神社を特別に支援しているとの印象を与え、特定の宗教に対する助長、促進になる効果が認められる。社会的、文化的条件に照らし相当とされる限度を超えている」として参拝が憲法二〇条三項が禁止する宗教的活動と判断した。
訴訟の対象は二〇〇一−〇三年の三回の参拝。首相は拝殿で「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳し私費で献花した。
首相は昨年四月に「私的参拝」と表明するまでは、「内閣総理大臣である小泉純一郎が参拝した」などと公私の別を明言していなかった。
原告は台湾の立法委員(国会議員)高金素梅さん(40)や太平洋戦争に従軍し靖国神社に合祀(ごうし)された台湾先住民の遺族ら。「戦争の加害者側と合祀された上に、首相の参拝で自由な立場で戦没者を回顧、祭祀する権利を侵害された」などと主張。昨年五月の一審大阪地裁判決は首相の参拝を「公的ではない」と認定し、憲法判断はせずに請求を棄却した。
小泉首相の靖国訴訟の二審判決では、別の原告の訴訟での大阪高裁、東京高裁が憲法判断をせず原告敗訴とした。