今日(3/23)の「サンデープロジェクト」に竹中平蔵が出てきて、またぞろ外国人投資家の「日本売り」の話を始め、新自由主義のプロパガンダを視聴者にシャワーしていた。
今度は法人税を下げろと言う。日本の株価の下落率が他国の市場より大きいのは、諸外国より法人税率が高すぎるからだと説明していた。日経新聞を含め国内の数ある新自由主義のプロパガンダ装置の中で、最も過激で厚顔なのが田原総一朗の政治番組で、世間の常識が徐々に新自由主義から離れ、「改革」政策の支持から離れて行っているのを必死で食い止める世論操作の防波堤の役目を担っている。実は二日前の金曜日(3/21)にネットで調べたときは、本日の「
サンデープロジェクト」は、ドル下落がテーマで榊原英資の出演予告になっていた。それが土曜日に突然ひっくり返されて、竹中平蔵に差し替えられた。電通の横槍だろう。今日の番組の中で田原総一朗は榊原英資の悪口を言っていた。これも電通の差し金だろう。これは見落とせない重要な事件だと思われる。
なぜ見落とせない重要な事件かと言うと、テレビ朝日の報道姿勢が近頃少しずつ変わって来ているからである。「報道ステーション」の論調が変わり始め、正月明け当時に
顕著だった新自由主義礼賛モードが影を潜めていた。最近は、救急医療体制や健康保険証の問題を特集したりして、古館伊知郎が慣れない社会保障問題を取り上げる機会が多くなっている。半年前の「クローズアップ現代」をパクったような内容を番組後半の時間帯で放送している。2ヶ月前はあれほど「改革、改革」と連呼して福田政権の無策を攻撃していた古館伊知郎が、一転して、最近の口調は、「こんなに大事な医療や年金の問題があるのに、」という枕詞に変わった。2ヶ月前は「このままでは外国人投資家に見放される」が常套句で、改革政策の貫徹を政府に求めていたが、最近は「改革」という言葉を言わなくなっていた。竹中平蔵や新自由主義系のエコノミストの出演も減っていた。よい方向への風向きの変化だと思っていたが、また新自由主義側の反撃が始まったのかも知れない。
最初に「日本株売り」の問題から言えば、竹中平蔵の説明は間違っている。日本の法人税率の水準は株価の下落とは関係ない。もし法人税率の水準が外国資本の日本株投資を阻害させる要因だと言うのなら、この5年間の米国資本の東京証券市場への夥しい流入とそれによる
株価上昇の事実は説明できないことになる。カネが余っていたから日本株に投資していたのである。ゼロ金利が魅力だったからドルを円に替えて東京市場で回していたのだ。規制が緩和されてハゲタカがボロ儲けできる制度を小泉政権が整備してやったから、面白いように東京市場にマネーを入れてゲームしていたのだ。
新聞で報道され、番組の中でも紹介されたが、3月第2週の外国人投資家の売り越しが、1987年のブラックマンデー時の売り越し額に次ぐ大きさになっている。これは資金の引き上げであり、その理由は市場で回せるマネーの余裕がなく、東証での株の売却益を本国に回収したという意味以外の何ものでもない。サブプライムローン問題の影響で損失が出て不足した資本を埋める分を引当処理しているのであり、マネーを投資資金から会計簿記上の自己資本に撤退させているのだ。
資金不足だけではない。日本にオフィスを構える外資系企業の場合、ドル安は強烈なコスト高となって経営を圧迫する。1ドル120円が1ドル80円になれば、それだけで経費が50%値上りすることになる。事務所賃貸料、光熱費、通信費、諸々の支出が1.5倍にハネ上がる。日本人従業員の給料は円払いだから人件費も1.5倍になる。ドル払いの米国人従業員は給与が目減りして東京での生活が苦しくなる。外資系金融の日本での事業継続の困難さは、単に東証の株価下落だけではない。ドル安がもたらす経費増大も大きな要因なのだ。そして幸か不幸か、新自由主義の経営哲学には「意思決定を素早くせよ」という鉄則がある。経営者は早く決断して早く行動しないといけない。慎重に状況を見極めてはいけない。デシジョンメイキングはクイックに、アクションのメッセージはクリアに。これが新自由主義の経営思想である。アメリカ社会科学(政治学・経済学・経営学・マーケティング)全体を貫くキーのフィロソフィーだ。それが結果的に成功であれ失敗であれ、組織のリーダーは決定と実行のギアをアグレッシブにチェンジすることを求められる。リーダーは決断に躊躇逡巡をしてはいけない。
と言うことは、日本に来て事業している米資のマネジャーが優秀であればあるほど、米学でマネジメントとマーケティングをよく勉強したMBA取得者であればあるほど、彼らはスピーディに日本法人を撤収して本国に資本を引き上げる選択をする。実際に、その決断をした方が損失が少なくて済むだろう。私は
正月の記事で東証の株価を年末時点で8000円と予想した。1月が15000円だったから、3ヶ月で3000円下落している。同じペースで次の3ヵ月で3000円下落すれば、6月末の時点で9000円になる。実際にその程度の下落になるだろう。外資系金融の資金引き上げは、今後さらに加速して、彼らの株売却と日本撤退が進めば進むほど東証の下落幅は大きくなる。実は、昨夜(3/21)のTBSの「ブロードキャスター」に榊原英資が出演していて、
円安バブルが崩壊するという解説と予想を出していた。これまでが円安バブルだったと言うのである。基本的にそう言えるだろう。この10年間の為替は、日銀の異常なゼロ金利政策と「強いドル」のためのドル金利高政策の二つの組み合わせでレートが実現されてきた。日米通貨当局による無理で強引な円安ドル高の状態が固定されてきたと言える。
日本の円の経常黒字がドルに替えられ、米国債となって米国政府の財政を支え、ドル運用されて証券となり、米国の金融市場で回り、米国株を上げ、米国の株価上昇の基調が米国の個人消費を支え、米国経済を安定的に成長拡大させていたのである。竹中平蔵は、今後の予想を尋ねられて、金融市場とマクロ経済は別物だというロジックで説明を立て、金融市場は混乱するが、米国のマクロ経済は堅調だと言い、田原総一朗と視聴者に新自由主義の安心理論を提供していた。この論理も詭弁だ。その場に榊原英資か浜矩子がいれば、簡単に論破されていただろう。問題は二点ある。竹中平蔵はドルの暴落の影響について全く触れない。竹中平蔵も榊原英資と同じく、これまでが円安バブルで、それが崩壊して劇的な円高になる事態は想定するが、それが同時に世界経済における史上例のない劇的なドル安の事態であり、そのドル安が米国経済に与える危機的影響について全く注意を払っていない。過小評価している。と言うよりも、意図的に問題を隠蔽して世論操作をしている。ドルの価値が暴落するということは、ドルの金融資産が暴落するということだ。米資が世界のマネー市場を動かす力を失うということだ。
それがどれほど大きなインパクトを米国経済に与えるか。世界のマネーがドルになって米資金融に流入しなくなれば、米国経済の成長を牽引した個人消費に重大なダメージを与える。住宅担保債権の焦げ付きは入り口で、米国金融機関の国内での貸し渋りは今後さらに深刻になる。住宅ローンの次はクレジットカードローンの信用収縮が問題になるだろう。M&A資金の融資も止まるだろう。個人消費だけでなく企業の設備投資にも影響する。金融機関が企業に融資を貸し渋ったら設備投資はできない。米国のマクロ経済は米国の金融市場と密接な関係がある。ドルの信用力は米国経済にとって決定的な問題だ。グリーンスパンは「戦後最大の金融危機」と言っているが、ドルがゼロ金利(実質)になるのを見るのは、私は生まれて初めてである。第二に、この米国の金融危機の解消時期について、新自由主義者の竹中平蔵はきわめて甘い予想を立てている。今年後半には危機を脱するだろうなどと言っている。その根拠として、米国当局の素早い政策措置のオペレーションを褒め、そして米国の銀行の不良債権の損失の少なさを挙げている。番組で何度も出たのは、シティの損失額3兆円に対する自己資本14兆円という数字だった。
確かに、この説明と根拠は、日本の金融危機と比較して「安心材料」に聞こえるかも知れない。だが、日本でも、最初の破綻は山一證券であり、同時に北海道拓殖銀行であり、それから日債銀と長銀へと広がり、大手都銀の合併劇へと続き、さらにそごうだのダイエーだのセゾンだの流通大手の破綻へと及んでいった。発端となった拓銀の破綻は政策意図的なもので、政府が都銀の合併再編と生保損保の外資への切り売り(金融ビッグバン)を促進するための導火線だったのではないかと現在は疑われている。FRB議長のバーナンキは、ベア・スターンズのような証券会社だけでなく、米国の中小の銀行にも破綻はあり得ると議会で証言している。拓銀のような事例の出現をどうして予想から排除できるだろう。ベア・スターンズの破綻も突然の出来事で、事前に予測されていたわけではなかった。竹中平蔵が出しているシティの損失額3兆円という数字は、単に昨年末までのサブプライムローン関連の損失に対する資本補填額で、今年に入ってからの数字は含まれていない。サブプライムローン関連で、あるいは他の金融商品でさらに損失が拡大している可能性もある。日本の銀行の場合も、時間の経過ともに不良債権が膨らみ、優良債権が不良債権に転化した。
現在、IMFが試算するサブプライムローンの世界全体の損失額は80兆円という数字になっている。しかし、IMFは昨年9月には損失は20兆円だと言っていた。半年間で4倍に膨れ上がっている。田中宇は昨年の11月の
記事で損失額100兆円(1兆ドル)という数字を出している。週刊ダイヤモンドは昨年末に150兆円という数字を出していた。仮にシティの損失が4倍の12兆円に膨れ上がれば、破綻は免れないことになるだろう。誰が12兆円の資本補填を引き受けてくれるだろう。竹中平蔵の予測には、米国の銀行が抱える不良債権が増殖拡大するという視点が全くない。サブプライムローンの損失額全体について米国の金融当局は正確な数字を開示しておらず、把握しているかどうかも分からないが、そのために信用不安が止まらずにドルの暴落に拍車をかけ、実体経済に悪影響を及ぼしている。日本の金融危機の場合もそうだった。数字を公開すれば銀行で取付騒ぎのパニックになるということで、実態は隠したまま何年も国民を欺いて時間をやり過ごす措置が財務省と政権によって選ばれた。米国も同じなのだ。大手銀行が潰れないように実態を隠蔽して時間稼ぎをしている。公的資金を投入するのは、GDP速報値でリセッション(2期連続マイナス成長)が確認されたときだるう。
竹中平蔵の安心理論は虚偽である。
【まとめ】
@
金融市場とマクロ経済は無関係ではなく、二つを分けて考えることはできず、米国経済の問題はまさにドル危機(通貨危機)が媒介する戦後最大の金融危機にある。
A
米国の金融危機の進行は証券会社の破綻だけに止まらず、今後の不良債権の増殖と拡大によって大手銀行資本のクラッシュにまで確実に及ぶ。
B
竹中平蔵の詭弁と詐術に騙されてはいけない。法人税率のこれ以上の低減など言語道断。東証の株価を上げたければ、サラリーマンの年収を増やして、資産形成で株を買わせればいい。
C
米国政府は、GDP速報値がリセッションを刻んだとき、株価(NYSE)の下落を最小限に食い止めるべく金融機関への公的資金投入に踏み切る。