http://amesei.exblog.jp/5758518/
2007年 07月 09日
「なぜ憲法九条が日本にとって最大の安全保障なのか?」 〜天木直人氏に会う〜
アルルの男・ヒロシです。
彼は、自分の政策チラシに『9条は最強の安全保障』と大きく掲げています。このメッセージを伝えている、天木氏が当選することは、日本の政治にとってひとつの革命ともいえる事態を生み出すと思います。なぜなら、「9条護持」はいわゆる左翼系の専売特許とこれまで思われていたからです。
しかし、この「憲法9条」というのは、保守派の思想にも充分つながるのです。今日のブログでは、私が保守の立場から、「なぜ憲法九条が最大の安全保障なのか」ということについて論じます。
<反権力・護憲は実は左翼の専売特許ではない>
今回、天木氏は、参院選に出馬するに当たり、いろいろな形態を考えたそうですが、最終的に「憲法九条を守ることが日本にとって最大の安全保障政策」であるという信念を共有してくれる、「九条ネット」の支援を受けて立候補することに決めたそうです。その決断を私は、アメリカから帰国した直後の5月25日に聞きました。ベンジャミン・フルフォード、国弘正雄、副島隆彦という意外な顔ぶれで出馬の意思を表す記者会見が行われました。
私は、これまで天木さんと政治についてじっくり話し合ったことがなかったのですが、今回実際に話してみて、彼の中から「憲法九条を守るという主張は別に左翼勢力の特権ではない」という強い意志を感じることが出来た。日本では、反体制派というか、政府に批判的な立場をとる人々は、すぐに「左翼・サヨク」扱いされてしまうが、アメリカでは本当に愛国心がある人々は常に大統領の外交政策に批判的です。
アメリカはトマス・ジェファーソン大統領の流れをくむ政治思想があり、この考えは、「アメリカは共和国であって、帝国ではない。アメリカは他国の外交政策に口出ししたり、領土に軍隊を送ってはならないのだ」という考えです。これを「アイソレーショニズム」といいます。悪意を込めて、孤立主義と訳されている場合が多いのですが、本来は肯定的な意味を持ちます。
このアイソレーショニズム考えは、日本の憲法九条の価値を認める保守系の護憲派の考えに通じるのではないか、私は最近そう思ってきました。
そもそも、憲法九条を改正して、戦争協力であれ、国際貢献であれ、自衛隊を軍隊として派兵することは、
「結果的に国民の中から、自国の国益に関係のない他国の土地で血を流して死ぬ人物が出てくることを容認すること」 であり、
「国際協力のための派兵の費用を国民の税金として負担させるということ」
を意味します。
アメリカにせよ、日本にせよ、両国にはそれだけの負担を行う余裕があるのか。ワーキングプアの問題や他国への雇用流出問題に悩む先進国では、その貧困層のはけ口を生み出すために対外的に強硬姿勢を取ったりします。特にアメリカの保守派は大きな政府に批判的ですから、政府の巨額の財政支出を生み出す戦争には真っ先に反対するのです。
今の安倍政権やブッシュ政権のやっている北朝鮮政策、テロとの戦いという政策は、そのような不満のはけ口を外にそらすやり方です。北朝鮮については誰もが快く思っていないでしょう。
しかし、だからといって北朝鮮に対抗するためにミサイル防衛を行うことに何の意味があるのか。よけいな国民負担を生み出すだけでしょう。ミサイル防衛が、相手のミサイルを打ち落とせないという事実は、何度もアメリカが迎撃実験に失敗していることからも明らかです。
国民は大きくダマされているのです。ミサイル防衛を推進しているのは、アメリカのレイセオン社というミサイルメーカーで、これが日本に共同開発の名目で開発費を負担させようとしているだけなのです。
レイセオン社のアジア部門のトップは日本の若手の民主党(A.N氏)、自民党国会議員(今回の選挙で関東で立候補している、Y.K氏など)にもコネの多い、トーケル・パターソンという国防総省の東アジア担当をしたことのある人物です。北朝鮮に対抗するためのミサイル防衛というのは名目に過ぎず、実際は、日本と米国の防衛産業がビジネスを生み出すために国民にたいして北朝鮮の脅威を植え付けるように裏で動いているだけです。元国務副長官のアーミテージが作成した、「アーミテージ・レポート」もタダの金儲けのための文書です。 これを日本の保守派はバカだから、ありがたがっている訳です。日本に利用価値があるから、アメリカは利用しているだけなのに、日本人はそれを「友情」だと勘違いしている。 (ミサイル商人、トーケル・パターソンの写真は以下)
だから、アメリカの新聞「ワシントン・ポスト」で、イラク軍をクウェートから撤退させた多国籍軍の活動に感謝する趣旨の全面広告が掲載されたとき、百三十億ドルの支援を行った日本の名前が無かったことを良いことに、「日本はカネを出しても血は流さない」ということを恥と思うような論調を展開する。
これらの言論は全て、日本の海外派兵を促すために仕組まれたプロパガンダなのですが、私を含めて多数の保守系といわれる日本人はその時には、「日本は国際社会から取り残される」という危機感を抱いたのです。
しかし、真実は、クウエートが日本に感謝していないという事実もないし、天木氏によると、アメリカ議会では日本の金銭支援については多大な感謝が寄せられたということです。考えてみれば、そもそもクエートから無視されることが、それほど重大な意味があるとも思えない。ところが、日本マスコミは大騒ぎした。
つまりは、あの感謝広告事件というのは、日本の外務省とアメリカのワシントンポストが結託して、わざと日本で、国際貢献に対する世論を興すために日本の名前を外したのではないか、天木氏はそこまでは言いませんでしたが、私(アルル)はそのように仕組まれたのではないかと考えています。
それで、この感謝広告事件がきっかけになって、PKO派遣、周辺事態法、イラク特別措置法というかたちで、日本の自衛隊を、日本の国益に関係ない外国に引きずり出すための立法が行われたわけです。
これが、アフガン戦争の「ショー・ザ・フラッグ」までつながっているわけです。アメリカ人は、もらえる支援はもらっておくという姿勢でしょう。しかし、アメリカの政策担当者は日本人の「お人好し」に呆れているはずです。
しかし、裏の事情を考えれば、アメリカは単に自分のための傭兵がほしかっただけです。既に述べたように、アメリカ自身は覇権国でありながら、国内では覇権主義的な外交政策を批判する勢力が根強く存在する。
「アメリカはまず自国の足下を見つめるべきで、闇雲に海外に軍隊を送るべきではない」という考えは保守派の間でかなり根強いのです。だから、覇権を維持するには、海外の軍隊を使うしかない。だから、アメリカは日本に改憲要求を行っているのです。責任分担という美名の元で行われているのはそういうことです。
<9.11テロはアメリカの長年の外交政策の結果と述べる下院議員>
ロン・ポールというテキサス州選出の下院議員がいます。「アメリカの中東政策の失敗が揺り戻し(ブローバック)として、アルカイダなどのテロリストを刺激して、世界貿易センターへの攻撃を誘発した。だから、アメリカにそもそもの責任があるのだ」と大統領候補たちが集まる討論会で強烈に民主・共和両党の外交政策を批判したのです。(ロン・ポールの写真は下)
つまり、そういうまっとうな政治勢力がアメリカの保守派です。軍需産業やイスラエルとの同盟関係を重視するようなタカ派的なネオコンばかりが保守ではないのです。日本にはこの声は伝わってこない。
そもそもネオコン派は元々は過激な左翼で、まともな保守派といわれる人は、「自分の子供を海外の戦地で死なせたくはない」というまっとうな考えを持っている。したがって、「テロとの戦争」にも批判的です。
<「憲法九条」があったのは不幸中の幸い>
その点、日本は、アメリカから押しつけられた憲法九条があったのは非常にラッキーだった。アメリカが押しつけたことを理由にして、アメリカの要求を受け入れないという外交政策を採ることが出来た。よく言われていることですが、仮に岸信介政権で憲法九条を改正して、日米安保の双務化を行っていれば、日本の自衛隊は、ベトナム戦争にかり出されていて、多数の死者を出していただろうということです。
アメリカに対する再軍備に対する強硬な反対を行ったのは、今の麻生太郎外相の祖父である吉田茂首相でした。吉田首相は、アメリカのダレス国務長官の再軍備要請を拒否した。吉田としては、アメリカは日本が戦時中に朝鮮半島に進出したことを批判して、裁判でさばいておきながら、自分の都合で朝鮮戦争に対応する必要が生まれると、今度は再軍備せよという要求をするのか、と怒り心頭に発したと言われています。だから、専守防衛の警察予備隊、自衛隊は持つけれども、大国の「覇権ゲーム」にかり出されるための軍隊は持たないという決意を示した。
この考えを吉田は憲法九条という条文を使ってアメリカに対して表明したといわれています。この吉田の主張を再発見したのは、ごりごりの保守派の元文藝春秋『諸君!』編集長の堤堯(つつみぎょう)氏です。彼は著書『昭和の三傑−憲法九条は救国のトリックだった』(集英社インターナショナル)の中で改憲派の三島由紀夫氏との会談で次のように話した内容を紹介しています。
「三島さんは不愉快に思うかもしれませんけど、憲法九条って実に巧みな条文だなと思います。これあるために日本人は戦争に駆り出されずに済んできた。古来、A国に負けたB国の方が、C国への侵略・制圧に使役される例は枚挙にいとまがないんですよね。日本は朝鮮戦争にもベトナム戦争にも行かずに済んだ。現に韓国は最強のタイガー部隊をベトナムに出して、ベトナム人の恨みを買っている。日本はそれをしないで済んだ。憲法九条を楯にとって。いわば憲法九条は『救国のトリック』だったと思います。
『昭和の三傑−憲法九条は救国のトリックだった』(集英社インターナショナル)堤堯・著
(引用終わり)
この「救国のトリック」を生み出したとされるのが、戦後まもなく首相になった幣原喜重郎(しではらきじゅうろう)という人物。
憲法九条のアイデアは、この幣原とマッカーサーの間の密議で生まれたと言われています。だから、この憲法は押しつけでしょうが、その中に幣原首相がトリックを仕掛けて、日本が第二次世界大戦後、戦勝国アメリカの傭兵にされるのを防ぐ条項を埋め込んだという事になる。吉田茂はそのことを理解していた。だから、後年、彼のコトバとして、つぎのような内容が防衛大学校の校長から紹介されていた。
(引用開始)
…だが、壇上の夏目晴雄学校長の口をついて出た言葉は僕の予想とは似ても似つかないものだった。
(校長は)「その上で、防大の生みの親である吉田茂元首相が諸君の先輩にこう言われたことがあります」と前置きして、防大OBの間で長年にわたり語り継がれてきたその言葉を紹介した。
…『「君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。
しかし、自衛隊が国民から感謝され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡のときとか、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。言葉をかえれば、君たちが日陰者であるときの方が、国民や日本は幸せなのだ。耐えてもらいたい。」
……諸君の先輩は、この言葉に心を打たれ、自らを励まし、逆風をはねのけながら、ひそやかな誇りを持ち、報われることの少ない自衛官としての道を歩んだのであります。』
杉山隆男「兵士に聞け」新潮文庫、pp57-58。
(引用終わり)
だから、吉田は、急迫不正の侵害を受けたときの正当防衛としての個別的自衛権については、九条二項で認めておきながら、自衛隊が次々に海外派兵をしていくような事態を防いだのです。吉田茂と孫の麻生太郎の違いは、この恐るべき「戦略眼」であるでしょう。堤氏と対談した中曽根元総理ですら、このトリックの有効性を認めざるを得ませんでした。
だから、日本の戦後の繁栄は吉田茂のこの重要な決断に基づいていました。この決断によって、日本はベトナム戦争という闘われる必要の全くなかったアメリカの暴走した国家戦略に追従することを免れ、経済再建を行うことが出来た。日本の保守本流は、表向きは自民党の中で、自主憲法制定を求めながらも、本音では九条を楯にアメリカに抵抗していました。
PKO派兵を実行に移した、宮澤喜一首相はこのやり方を「モラリティのない外交」と評したのですが、私はこの「吉田ドクトリン」ともいうべき外交政策を全面的に肯定したいと思います。これがなければ、日本はベトナムやカンボジアに派兵させられていたでしょう。他に選択肢は無かったのです。
吉田首相は、左翼の空想的平和主義や非武装中立政策については批判します。これは彼が後年『世界と日本』(番町書房)で書いていた話です。しかし、九条を楯にするという「現実的平和主義」(リアリスティック・パシフィズム)については最後まで貫いたように思います。
だから、戦後の岸信介の系統の保守派はそもそもがアメリカの意向を受けていた保守派で、正統なる保守本流というのはだからハト派の宏池会なのです。安倍首相は、岸信介の系譜の一番悪い部分(アメリカべったり、改憲国際主義指向)を受け継いでいる。実は彼等は保守傍流です。親米タカ派色の強い岸を首にして、池田勇人を首相にするように裏で動いたのは、日本の財界の司令塔、小林中(こばやし・あたる)であったと言われています。財界も戦争に巻き込まれたくはなかった訳です。
現在の安倍氏の最大の支持勢力である「産経新聞」は、「日本にとっての頼みの綱は、知日派のアメリカ人とネオコン派である」(7月8日、田村秀男編集員の論説http://www.sankei.co.jp/kokusai/usa/070708/usa070708000.htm)とすら書いている。だから、もっとも自主独立の精神から遠い人たちです。安倍、麻生の両氏のような政治家は、「日本の大国思想」にとりつかれたような人たちでしょう。憲法九条を保ちながら、経済発展を日本の生きる道として選んでいこうという考えはない。
<天木氏は、現実的平和主義者であって、非武装中立論者ではない>
彼の主張は、現実的平和主義に「右も左もない」ということです。この見せかけの左右対立はもはや過去のものとして考えるべきという彼の考えに全面的に賛成です。
この不毛な左翼・右翼論争が、戦後の日本の安保議論を大きくゆがめてきました。私たちは、そこから一歩先に出ることが必要でしょう。
ネットの収支(損得勘定)を考えれば、戦後の日本の憲法九条を基軸にした現実的平和主義は、日本にとって得な部分の方が多かった。であるならば、「今、改憲をしたり、集団的自衛権を認めることに何のメリットがあるのか」ということを問わなければならない。プライドのようなものは現実的平和主義の前では吹き飛びます。
改憲によって、トクをするのは、日米軍需産業とアメリカのジャパン・ハンドラーズだけです。一般市民はまず損をするだけです。
もちろん、政治家の中にはやむにやまれない事情でそのようなアメリカの代理人をしなければならない人や、支持層の軍需メーカー系の雇用を守るために、そうと知りながら従米的政策を採らなければならない人もいるのでしょう。
しかし、利害関係のない私たち一般市民はそれにおつきあいする必要はない。サイレント・マジョリティであるサラリーマン層や主婦層やフリーター層は、ごまかしに満ちた政府の言論に付き合う必要はない。
既成政党、どの政党にもしがらみがあって、言いたいことを言えない、投票行動に結びつけられない場合があるでしょう。そのようなしがらみのない一般市民は、今のなし崩しに憲法改正に突き進むような状況に対して批判の声を挙げるべきだし、数の力でまともに審議をしないで法律を成立させていったり、消費税を増税する一方で、実質的な税負担も増やしていくような政府に反対の声を挙げなければならない。
日本は代議制民主主義の国です。そのような「声なき声」の受け皿にするような代表者がどうしても必要でしょう。
天木氏は、「自分はそのような一般の国民の声を国会でぶつける窓口になりたい、と語っています。新党大地の鈴木宗男議員のやっているような、質問趣意書を使っていくことも考えているそうです。
とにかく今の日本の現状を、具体的にひとつ、ひとつの事実(ファクツ)を摘出して示すことで、皆さんの前に暴き出していきたい、と話しています。憲法改正が具体的に政治日程にあがるのは3年後です。それまでに、改憲のデメリットについて、天木氏は国会で訴えたいと話しています。
九条の問題だけではなく、自分自身が「オンブズマン」のような形で、政府や行政の悪業を国民の目の前にさらけ出させていきたい、とも話しています。だから、積極的にインターネットやブログを活用して、いろいろな人の声を集めて、それを一つの結集軸にしていきたいそうです。これが、「護憲」と並ぶ、天木氏の政策の主要な柱です。
国民の間に真実を伝えること、真実暴露を自分の仕事にしたいということです。
天木氏は、仮に当選したら6年間この「国民のためのオンブズマン活動」をやり続け、それと同時に全国の声なき声を組織していきたいと話していました。その政治活動や講演会の様子は、インターネットのYoutube動画でアップロードされています。
http://www.youtube.com/user/playfulmind9